飲食店経営を退職後に夢見る?その先には地獄が待っている!!

飲食店

昔と違い、現代は後半の人生がとても長くなってきています。そんなご時世なのか退職したら好きな料理を、こじんまりとした居心地の良い店で提供して、お客様をもてなしたい。「自分の趣味を兼ねて収入を得られたら、どんなに素敵な人生になるだろう・・・」などと夢を見るのだろうか?

ともかく、コンサルタントの先生方の投稿記事を見ていると、そういう相談がとても多いと書いてあります。先生方がおっしゃるのですから、そうなんだ、と納得せざるを得ないです。

40年近く飲食店経営を続けてきた私が、その経験に基づいて、そんな人達が地獄の人生を歩むことのないように警告のために、この記事を書きました。

目次

私の場合、飲食店開業その経緯

私の場合は20代後半に脱サラから始めた飲食業ですが、先に書いたような、夢を持って始めたという事はまったくなく、反対にやむを得ず始めたという感じです。それから40年近く飲食店の経営をやってきましたが、その間苦しみばかりで、夢など一度も感じたことはありません。

この先、地獄に落ちるのかという思いの経験を何度もしました。

いきなり実践、現実直面から始まってしまった訳です。なぜそうなったかというと、いざ独立しようと先に会社を辞めてしまい、郷里に戻ったのはいいのですが、私は18歳の時に進学のために郷里を離れ、それ以来県外生活でしたからその影響で、地元に何の手掛かりも無かった訳です。

いきなり事業を興すことなどできるはずもないですから、そのため先ずはアルバイトをしながら、何か事業を始めるネタはないかなと模索したのですが、1年経っても何の手立ても見つからなかったのです。

会社を辞める前に結婚もしていたので、このままいつまでもアルバイトという訳にもいかず、仕方がないので手っ取り早く独立するために、飲食業に手を出したという訳です。

そんな訳でいきなり、「仕方がないので手っ取り早く」なんて書き方をして、誰でも簡単に始められますという事を言っているようになってしまいましたが、そうではありませんので、以下本文をお読みください。地獄の始まりを解説しています。

飲食業界はもう飽和状態、過当競争を強いられる

あるコンサルタントの先生の記事によると、統計データ(出典元は下記*)で2009年度の全国の飲食店の数が144万店とされていて、毎年その一割ほどの数の飲食店が新規出店しているとあるそうです。

(*統計データの出典元は厚生労働省大臣官房統計情報部が発刊している「衛生行政報告例」です)

毎年その一割ほどの数の新規出店という起業率は、ほかの業種ではありえない数字です。

それほどこの業種の人気は高いと言えることになりますし、新陳代謝も激しいとも言えます。なぜなら、お客様はどうしても新しい店に、流れて行きやすいです。私の経験上、それが現実です。

さらにその先生の記事に書いてある事は、その5年後の統計データ(出典元は上記*)2014年では142万店と微減していると指摘しています。

ここがポイントで、数が増えていないという事は、新規出店と同じ数だけ店が潰れているという事になります。さらに144万店から142万店に減っているという事は、完全に飽和状態から消費需要が減っている状態を表していると思われます。

この飲食店の需要が減ってきているという事情は、私の長年の経営経験からも原因は容易にわかる事です。それはいくつか原因があり、複合的なものですが、その内の一つは誰でも知っている人口減と言う問題です。これはもう避けようが無いですね。

飲食店の経営は最も難しいビジネスモデル

一番の難点は初期投資額が大きい箱ものビジネスであり、その箱ものである店舗は固定されていて、どこにも移動できないという事が、最大のビジネス上のリスクになります。

どういう事かというと、最初に見込んだ商業環境が変わっても、その場で不利なビジネスを強いられるという事で、ダメな場合は廃業しか選択肢がない訳です。

ここまでの説明でピンとこない人のために、さらに付け加えて言うのですが、私の脱サラする前の前職は営業職でした。営業というのは自分の有利な場所を選んでビジネスができるのです。その地域が不利なら、事務所などはそれほど費用をかけずとも、引っ越し費用位で簡単に移転できます。

しかし、飲食店一店舗に掛けた投資額の上に、移転の場合はその場所を更地に復帰させなければなりません。その工事費が高額になりますから、一度出店したらもう移転などは簡単にできません。不可能に近いです。そういう事を理解してください。

そのようなハンディを背負って、さらに飲食店の経営は最も難しいビジネスの一つだと言われるほど、多義に渡っての要素が要求されるのです。

まず、最初に多額の資金の調達、そして店舗立地の選定、それから店舗構想作り、マーケティング、メニュー企画、仕入先開拓(まだ本人に実績がなく信用が無い状態)、開店後は原価管理、製造管理、財務管理、人の採用、人事管理等など細かいことまで言ったら切りがないですが、経営学のほとんどの要素を必要とします。

そのような高度のスキルを必要とされるビジネスの割に、利益率は非常に低いです。私もいつも割に合わないビジネスだなと、実感しつつも頑張っています。

さて、飲食店における生存率はどうなっているのでしょうか。これについてはいろんな説明資料がありますが、国が正式に調査した資料はありません。

いろいろと資料を見かけますが、調査元ごとに調査地域やその年代により、結果が少しずつ異なっています。ですから、それらのデータを大まかな情報としてまとめてみると、飲食店開業1年後の生存率は70%、2年後で50%、3年後で30%、5年後で20%、10年後では5%~10%と言えそうです。

そうそう、この話も付け加えておきます。飲食業界で経験を積み独立した、あるイタリアンオーナーシェフの方がYouTube動画の中で語っていた事で、大まかに書くと次のように、同じ事を言っています。

「飲食業界に100人入ってきたとして、この業界にそのまま残る人は30人未満、その人達の内、少なからずの人数が独立開業を目指すが、実際に独立開業できる人はその内の一人いるかどうか、そういう開業した人達が100人いたとして、10年後に残っているのは100人の内、数人だけというのが現実です。」(参照元:YouTube動画の中の語りを編集)

ま、しかしこのイタリアンシェフは「私の感覚としては」と前置きをした上で話していましたが、上記のデータと比較しても最後の数人(5、6人)というのは、ほぼ当たっていると言って良いと思います。

私もその「10年後に残っているのは100人の内、数人だけ」というのには40年間の身の回りの現実を見てきて、経験的に共感できます。というのも、私の店の立地は市街地にあり、開業当時から飲食店の盛衰をみてきましたが、今現在まで存続している店はほぼ皆無です。

それにしても、私は40年近く飲食店の経営で生き残ってきましたが、凄いことなんですね。しかし、私的には何も自慢するものがないのですけど、ただ必死で経営をしてきただけです。

何度も経営は行き詰まって、もう潰れるかという経験を繰り返してきましたが、一番思い出すのは担当の銀行員さんが来て「今日引き落とし分の銀行残高が不足をしていますがどうします?」と言われ、「いくら不足していますか?」と聞き返した言葉に「三万円入金してもらえれば足ります」と言われたのですが、その三万円が手元に無かったのです。

まさか、レジの釣銭を渡すわけにもいかず、私が返答に困っていると、驚いたことにその銀行員は次のように言ったのです。「分かりました、僕が立て替えて入金しておきますから」この言葉にはびっくりしました。これは、もう一生忘れられない出来事として記憶に残りました。

ま、そのような状況だったのですが、たったそれだけの金額でも、現実には二度資金ショートを起こせば銀行取引停止です。

実はその人は、私の中学時代の部活の先輩だったのです。ですから良く私のことを知っていてくれて、面倒を見てくれたのでしょう。それにしてもという思いで、あの時の先輩、今どうしているかな~と、事あるごとに思い出します。

今や競合相手は、飲食業界内だけでは無くなっている

簡単に説明すると、自分の店舗の近くにコンビニエンスストアが出来たら自分の店の売り上げが食われるという事です。これは容易に想像できることです。

そういう商業環境の変化を身近に、もろに受けてきた経験を以下に書きます。

40年ほど前に私が開業した頃は、近隣に同業者も含めて店の数も少なく、数年間はとても繁盛し儲かりました。要するに真空地帯に出店という感じです。しかし、その開業後の40年間の市場の環境変化と言うものは、顕著なものがありました。

私の店の商圏範囲で起きた環境変化が、そのまま全国のモデルケースとして、説明できると思います。

まず開店した頃は、食に関連する店舗も近隣に少なく、テイクアウトメニューも含めてとても需要があり繁盛しました。

しかし、スーパーマーケットが何店舗か出店し始め、やがてそのスーパーマーケットがお惣菜とか弁当を販売するようになりました。いわゆる中食と言われるものと私の店が競合するようになったのです。

その内にコンビニエンスストアが多数出店してくるようになり、今では信じられない程の店舗数があります。そのコンビニがお惣菜とか弁当を低価格で販売するようになったのです。

やがてとどめを刺しに来るような感じで、あらゆる業種の外食チェーン店出店が相次ぎました。そして、既存の店がどんどん潰れていきましたが、そんなのお構い無しのような感じでどんどん新店舗と入れ替わっていきます。

今では私と同じ時期に在った店はほとんど見かけません、9割以上は潰れたという感じです。

私の店の対策としてまず、テイクアウトも含めた新メニューの開発、10年毎の業態転換、最後の店は業種まで完全に変えました。しかし何をやっても売り上げは回復しませんでした。

なぜ回復しないのか。それは私が思うには人口はほとんど増えず変わっていないのに、ものすごい数の食を提供する店舗が増え続けました。急激な環境変化には小手先の戦略ではもう勝てないという事です。

大型の飲食チェーン店舗だと、年間で億単位の売り上げを計上します。もう太刀打ちできません。反対に大型の飲食チェーン店舗でも潰れていきます。どれだけそれを見てきたか数え切れないほどです。

まさしく、戦国時代です。

以上、時代の流れによる変化を説明してきましたが、思い当たる事もあり、実感できると思います。

この先の展望

そのうちに更なる時代の変化の波が・・・、携帯電話そして今はスマホなどまたはゲームなどの娯楽、生活の変化に伴う可処分所得の使い道の変化、つまり通信費だけでも何万円も掛かるようになり、外食に使える費用もそれだけ少なくなったという事です。

さらにこの先、若者の人口が減っていくとなると市場そのものが、成長産業ではなくなる訳で、いろいろ考えるとこの先、個人事業レベルの力では相当の経営力がないと生き残れないと言うのが結論です。

その先には地獄が待っている

生き残れないから廃業しますと簡単に清算できるなら何も問題ありません。さらにその先、行く末の本当の地獄を理解していない方がいらっしゃると思うので、説明していきます。

この飲食店経営と言うビジネスは初期投資額が非常に掛かるという事で、普通に開業するとなると簡単な店舗でも、初期費用は軽く1000万円を超えます。それも自己資金で開業するのならまだしも、もしそうだとしても、いざ廃業しようとした時の閉店後の後始末に何百万円も掛かる場合もあります。

普通には開業資金を全額自己資金で始める人は少なく、ほとんどの人が借入金で開業資金を調達しますので返済ができなければ破産します。たいがい潰れる店の場合赤字経営で潰れる訳ですから、さらに運転資金をぎりぎりまで借り入れています。

ですから、そんな状態で店が潰れるということは自己破産を意味します。

私の知り合いの中でも二人、業種はそれぞれ違いますが店が潰れました。その末路は悲惨です。一人は離婚の上、朝、死亡していました。もう一人は自己破産をして、負債を無くし、後日会いに行ったら、何とか元気に生活はしていました。

まとめ

ここでは本文の要約でまとめますが、飲食業界はもう過剰なほど飽和状態にあり、特に大手外食企業のチェーン店が全国津々浦々まで浸透していて、新規参入者が楽に商売できる商圏は無く、常に過当競争を強いられる時代です。

そして飲食店の経営は最も難しいビジネスモデルの一つと言われるほど厳しく、素人が経営できるほど甘くは無いです。最近でもプロ集団が展開する、企業経営のチェーン店でさえ身近に何店舗も閉店しています。

しかも驚くことに、私たち夫婦が視察目的で外食に行って、この店は大丈夫と評価した店がどんどん潰れています。もう40年近くも飲食店の経営をやってきた私たちでも、読み切れないほどに経営が難しくなってきているという事です。

今や競合相手は、飲食業界内だけでは無くなってきていますが、消費行動が世代間で違い、もう自分の世代以外の消費行動は読み切れないという事でしょうか。

この先の展望として一番の大きなインパクトは人口減という問題です。需要が減るという事ですから、どう対応していくか、どう生き残るのか回答が見出せません。

そして、店が潰れるその先には、破産という地獄が待っているという現実です。

飲食店の開業、経営に夢を持っている人に改めて警告します。

夢はあくまでも夢です。現実には不可能と思い、あきらめた方が賢明です。

補足

最後にもう一つ書き忘れるところでしたが、思いついたので補足として記事にしておきます。

一般の人が誤認識していることについてですが、大概の人は「美味しいものさえ出していれば必ずお客様は来てくれる、そして繁盛する」と思っていることです。

これはとんでもない間違いでしかありません、こんな認識で戦略を練ったら初めから地獄街道まっしぐらです。そんな認識は職人根性で飲食店の経営としては成り立ちません。

美味しいという戦略的要素は戦略全体の三割位しか占めません。

「じゃ、他にどんな要素があるんだ」と質問が出そうですが、常識的に冷静に考えれば思いつく事で、例えば立地力、店舗力、訴求力、サービス力等など戦略とはいろんな複合力の集積したものです。ですから、なかなか正解を導き出しにくいものです。

なぜ、こんな簡単な事に気が付かず、「美味しいものさえ作っていればお客様は付く」と思い込むのか、それはテレビ番組の影響です。

ほとんどのグルメ番組は「繁盛している美味しい店」をテーマに番組編成をし、登場人物にこれでもかというほどに美味しいを連発させます。これで飲食店とはどうあるべきかを洗脳するのです。

言い方を間違えました。洗脳するつもりはなくて、観ている方が勝手に洗脳され、思い込んでしまうという訳です。

ですから素人が飲食店を経営すると、ほとんどの人は戦略を誤るのです。

以上、この記事をよく読み返して、参考にしていただければ幸いです。皆様のご健闘を祈ります。

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