どのような事業体でも、経営するためには何らかの資料が必要です。その最大の資料が簿記を基にした会計資料です。
当たり前の話ですが、経営判断する時に必要な資料というのはまず売り上げ実績、そして利益額の推移、その他経費の比率その内訳、結局それらの資料は簿記会計によって得られるものです。
ですから経営に簿記は必要かと問われれば当然絶対必要と言わざるを得ません。
以下、私の実践経験を基に詳細に、初心者を想定しその考え方を実践向けに解説いたしますので、ぜひご一読頂ければ明日からの飛躍に繋がると思います。
私の場合の実際
この記事は私が実際に40年近く小規模飲食店を経営し、その経理の簿記を誰にも頼らず一人で管理、そして税務の確定申告までこなしてきた経験に基づき書いたものです。
読者はおそらくこれから飲食店の開業を目指しているか、または開業して間もなくで、飲食店の経営における経理の簿記について、経験も知識も無くそもそも簿記というものをどう考え、何から取り組んだらよいのか、そして税務申告はどうなるのか等々、悩んでおられる方ではないかなと想定して記事を書いています。
私の場合は簿記をどうするとか税務申告はどうなるとか、そこまで考える余裕もなく、まったく無知な状態で開業をしました。
そして経営をやりながら必要に迫られて、例えば売り上げ記録とか、仕入れ記録とか、そして支払いのやり繰りなど、資料が無ければまったく経営そのものができなかったのです。ですから手探り状態で経理の簿記を始め、そして税務申告も手引書を読んで何とかこなしました。
私が独立開業した頃の環境条件というのは今と違い、誰かに頼って教えてもらうか自分で本を買ってきて独学独習でやるしか方法がなかった訳で、私の場合は周囲に頼れる人など誰もいませんでしたので、もっぱら経理の簿記の本を買ってきて独学独習でやりくりしてきました。
今の時代そういう面では大変恵まれていて、ネットで調べればほぼ必要な経理の情報や簿記の教材は手にでき、さらに動画まであります。ですから、何の心配もなく飲食店の経営そして簿記を独学でやっていけると思います。
今回の記事はそういった環境条件も加味して、あまり深掘りはしないで簡単に読めるように、「飲食店経営の簿記その必要性と考え方‼そして税務申告との関連は?」という事に関して大事なポイント、押さえるべき事柄を中心に記事にしました。
ここで、タイトルに対する簡単な結論を書くと、次のように言えます。「簿記の資料があって初めて経営の舵取りができ、簿記の決算資料があって初めて税務申告が可能になります。そもそも、どのような事業体でも簿記の機能が無く税務申告をしなかったら、法的にも存続そのものが認められません。」
ですから、簿記の必要性については厳格に考えてください。簿記と税務申告は対を成し、その二つを管理して経営が成り立つと言う事です。しかし、難しい勉強はしなくても簿記は始められますから、心配はいりません。
経理の簿記は色々あるが、その選択は?
先に経理の簿記をどれにするかを決めないと話の進めようがないので、最初にほぼ結論を書くことになります。
そしてこの「経理」と「簿記」という言葉の意味をしっかり理解して説明できる人が、意外と少ないように思います。それというのも、この言葉は日常会話で使われるものでは無く、ある種、経済界の専門用語ですから正しく理解していないと、書き手の意図するところが伝わらないと思います。
ですから、まずこの言葉の説明から始めたいと思います。
「経理」とは実際は「経営管理」の略称
元の言葉は「経営管理」という言葉です。そう聞くとかなり従来のイメージとは変わってくると思います。
ですから経営管理=経理には、財務管理はもちろんですが、販売管理、人事管理、労務管理、生産管理、情報管理というような範囲まで含まれると思います。しかしこれは、その事業体の職種、規模、考え方によって組織的な構図が変わってきますから、経理部門でどこまで管理するかは一概に言えないことです。
それでも、企業の経理ではあらゆる部門の情報を数値化して管理する訳ですから、経営者の直属部門として仕事の役割を考え直してみるのも、何らかの改革に繋がるかもしれませんね。
ちょっと、私たち個人事業者には関係のない話になってしまいましたが、組織的な企業体の経理部門の、どの部分を個人事業主として、自分は実践していく事になるのかという、理解を深めるために説明しました。
簿記とは一定のルールに従い経済活動を、帳簿に記録する事
簿記とは毎日の何らかの取引のお金の流れを帳簿に記入し、現状どのくらい現金があるのか、そしてどのくらい儲かっているのかを知るためにあります。でなければ、事業の経営ができません。
ですから飲食店と言えども、経営は簿記によって成り立つといっても過言ではないと思います。
そして、どのような簿記でも最終的な目的は決算書を作ることにあります。それによって経営成績と財務状態を知る事が出来ます。
さらに決算書があれば税務申告ができますから、一つの簿記で二つの目的を兼ねることができます。
さて、ここまで理解して頂けたら次の話です。
冒頭のまえがきで「簿記と税務申告は対を成し、その二つを管理して経営が成り立つと言う事です。」と書きましたが、以下、その税務申告の事からです。
税務申告は青色か白色か?
これは青色申告を選択してください。
なぜ青色かというと、2014年1月から白色申告者に対しても記帳と帳簿等の保存が義務付けられ、青色と事務負担がほとんど変わらなくなりました。それにも関わらず、青色と比べて節税につながる特典がほとんど無いという事から、当然青色申告をした方が良いのではという事です。
ですから、まず事業を始めた時には必ず税務署に「個人事業の開業届出書」を提出しますが、この時に一緒に「青色申告承認申請書」を出しておいた方が良いと思います。
さらに夫婦(または家族)で営業する場合には「青色事業専従者給与に関する届出書」もあわせて出す事もご検討ください。
青色・白色どちらも申請しないでおくと、税務署から自動的に白色申告書の用紙が届きますが、いつでも届けを出せば変更できます。
複式簿記の知識がない初心者は簡易簿記(単式簿記)からスタート
さて実務ですが、この際最初は慣れるまで本格的な経理業務の複式簿記はあきらめて、簡易簿記(単式簿記)で経理業務を行えば良いです。
それによって決算時の貸借対照表(バランスシート)作成を省略して、確定申告も簡単に済ませた方が良いと思います。
以上、ここまでで「飲食店経営の簿記その必要性と考え方!そして税務申告との関連は?」の結論がほぼ出ました。
次の項からはさらに解説しながらその理由を説明していきます。
なぜ簡易簿記(単式簿記)からのスタートか?
白色申告との比較、青色申告における単式簿記と複式簿記の特典の違い
A、白色申告における簡易簿記(単式簿記よりさらに簡単な簿記)は特典や控除額は無しです。
B、青色申告における簡易簿記(単式簿記)の場合はメリットが大きいです。以下、その条件と特典です。
- 単式簿記による記帳が必要
- 損益計算書の作成が必要
- 青色申告特別控除 /10万円の特別控除が受けられる
- 青色事業専従者給与 /家族を従業員として給料を経費計上できる
- 貸倒引当金の計上 /貸し倒れによる損失を経費計上できる
- 純損失の繰り越しと繰り戻し /赤字になったら翌年以後3年間にわたって所得金額から引ける
C、さらに青色申告における複式簿記の場合はつぎの項目が増額されます。以下、その条件と特典です。
- 複式簿記による記帳が必要
- 損益計算書と貸借貸借対照表が必要
- 青色申告特別控除 /65万円の特別控除が受けられる
ここで、A、B、C、を比較、業務として効率を考えると、一番メリットが大きいのは、Bの項目であるのがわかります。
なぜBを一番メリットが大きいと考えるかですが、これはある種私の考え方によるものですが、まずAの選択は論外です。
次にCの選択をするには複式簿記の問題を解決しなければなりません。その解決方法は次に挙げられます。
- 自分で複式簿記の勉強をして実践・・・できるようになるまで時間がかかる
- 会計ソフトの導入を考える・・・複式簿記の基礎的な知識が必要でソフトを使いこなせるまで時間がかかる
- 税理士に任せる・・・それなりの経費がかかる
私としては以上を考慮したが、節税効果と比較しても、どれも選択の余地は無かったということです。
個人事業飲食店の簿記は簡易簿記(単式簿記)で良い
本来の簿記の目的は財務状態と経営状態の把握にあると思いますが、飲食店の個人事業主の場合、店の財務状態というのは小規模であるがゆえに、常に把握できているのが普通だと思います。
個人事業主の簿記の目的
ですから、小規模飲食店の個人事業主の経営における簿記の目的は経営状態の把握に尽きると思います。つまり、個人事業主の場合、損益計算書の作成が簿記の目的になります。
損益計算書作成のための簿記だったら、簡易簿記(単式簿記)で十分であり、さらに損益計算書ができれば税務申告も可能となるため、個人事業の経理業務はすべてカバーできることになります。
複式簿記の導入は必要か
複式簿記を導入すると何ができるかと言う事ですが、貸借対照表(バランスシート)の作成ができるようになってきます。それによって青色申告の65万円の特別控除を受ける事が可能になります。
しかし、私の個人的な見解としては、個人事業で必要な資料は損益計算書があれば十分で、貸借対照表は無くても良いと思っていますので、開業初期の段階では簡単な簡易簿記でスタートしたら良いのではと思います。
将来、会計ソフトの導入で複式簿記に移行するのがスムーズ
そして、将来多店舗化などの事業拡大により必要性が生じた時に、または経営が軌道に乗り余裕ができた時などに、会計ソフトなどを利用して複式簿記を導入すればスムーズに経営が推移していくのではないかと思います。
とにかく、経営において事務処理作業はかなり負担が大きく大変です。その上になれない複式簿記まで勉強してとなると、かなり困難になると思います。
最近では会計ソフトがかなり進化してきているようですが、それでも複式簿記の知識がないと使いこなせないと思います。ですから、余裕ができてからの導入をお勧めします。
ま と め
「飲食店経営の簿記その必要性と考え方!そして税務申告との関連は?」に対する結論は「簡易簿記(単式簿記)で経理業務を処理すれば、その結果、税務申告も可能になる」となります。その理由を下記に、箇条書きでまとめました。
- 簡易簿記(単式簿記)で決算書の一つ、損益計算書が作成できる
- 小規模飲食店の個人事業主に必要で最重要な経営資料は決算書であるが、その中でも損益計算書があれば十分であると考える
- そして、損益計算書があれば税務申告は可能になる
- しかも、税務署が簡易簿記(単式簿記)での損益計算書の作成、そしてそれに基づく青色申告を認めている
- さらに、単式簿記では65万円の特別控除を受けるために必要な貸借対照表が作成できないが、いずれ会計ソフトの導入によりそれも可能になる。
- 申告書類にその貸借対照表の内容を書き込めば、その時点で65万円の特別控除を受ける事が即時できるようになるから、無理をしなくても他の大事な事を優先すべき
以上がまとめですが、とにかく開業当初は経営が軌道に乗るまでかなり大変です。
経理の簿記は選択ができるのですから、開業当初はなるべく簡単な方法である、簡易簿記(単式簿記)を選択される事をお勧めします。